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もりげコラム


  自らの人格構成要素についての一考察 Date: 2002-07-25 (Thu) 
 男子校の出身だ。他ならぬ私の話である。
 女子校出身の者は、多くの場合、自らの高校(あるいは中学)生活を振り返ったとき、女子校で良かったよ、と語る。なにしろ姉妹の契りで薔薇でマリア様なのだ。読んでないけど。ところが、かたや男子校出身の者は、そのことに対して複雑な思いを吐露することが少なくない。たとえば私の高校の同級生の某は、大学1年の時に学園恋愛アドベンチャーゲームにはまりこんでしまい、何を勘違いしたか「おれの青春を返せ!」と息巻いていた。
 共学への幻想や憧れを捨てることなく生きていける、というのは幸せなのだと私は思ったりもする。かくいう私自身、そのような幻想を心の片隅に抱き続けているのだろう。
 しかし、男子校出身者は、しかも私のように中学高校ともにそうであったならなおさら、大学に入ってとまどうことが多いものだ。なにしろ6年のあいだ口をきいた異性といったら母親と飼い猫のウェンディー(仮)と、……強いて付け加えるとすればもうひとり、無闇に迫力のある英語教師ジャイ子(仮)だけだったのである(ちなみにこの教師のことは私はある意味でかなり尊敬していた。元気にしているだろうか?)。周りの半分以上が異性の環境でどう振る舞えばいいのか、わかるわけもなかろう。いろいろと内心動揺しながらの大学生活となってしまったのである。
 しかし、さすがに3年もたてば、それなりに自分のキャラも確立してくるものだ。どんとこい、異性。――それはそれで結構なことではある。あるのだが、私はキャラを確立する上で何を手本にしたのか? それが問題なのだ。私のこのキャラは一体なんなのか。なんといっても6年間のブランクがあるのだ。何か依って立つ見本のようなものを用意しなければ行動原理を固めることなどできるはずもあるまい。
 さあ、答えてみろ、自分。その胸の内のかすかな不安と恐怖を白状してみろ。おまえはどういう人間なのか? ――そう、私は、……オレは、恋愛アドベンチャー、端的に言うとエロゲーの主人公をベースに女性への言動を構築してきたのではないのか? それしか手軽に見本にできるものがなかったのも事実なのではないか?
 ふと、現実感が薄らいでしまうような感覚が襲ってくる。オレは……


高彦「じゃ、おれ弁当買ってくるから」
早見さんはそう言うと、手を振って楽屋を後にした。バタン、と音を立ててドアが閉まる。残されたのはオレとドレス姿の渚ちゃん。
祐一「……」
楽屋に男女ふたりというのも微妙に緊張するな。大体において、カーテンがあるからって男女をひとつの楽屋に押し込めるなんて、どうなってるんだか。
祐一「……渚ちゃん、GPは半からだっけ?」
渚「……うん」
渚ちゃんはまだ鏡の前でドレスと格闘しながら答える。
祐一「伴奏者、間に合うといいけどね」
渚ちゃんはしかし、それどころではない、といった雰囲気だった。
渚「……うう」
祐一「……」
………。
……。
…。
3分経過。渚ちゃん、まだやってるよ。なんか必死で首を回して鏡をのぞきこんでるのが辛そうだな。
オレは……

1.見かねて声をかけた
2.まあ、自分で何とかするだろう

祐一「あのさ、大丈夫?」
渚「え?」
小首をかしげてこっちを見る渚ちゃん。
祐一「いやさ、苦労してるみたいだから」
渚「あ。うーん。じゃ、ちょっとこれ留めてもらってもいいかな?」
そう言うと、彼女は腰のリボンを手で押さえながらこっちに来た。
祐一「え? いや、うん」
(音楽変わる)
祐一「……ちょっとごめんね」
断って腰に手を伸ばす。なんとなく緊張してしまう。女の子の着付けを手伝うなんて初めてだ。リボンは、どうやらスナップで留めるようになっているらしかった。どうしても腰に触れている指に意識が行ってしまう。
祐一「……よし」
プチッ、と音をたててスナップが合わさった。急いで手を離す。
渚「ありがと」


 しかし、口調、態度その他、考えれば考えるほどエロゲーの主人公である。おちゃらけた軟派というわけでもないが、女性には妙に優しく、妙に積極的。……どうすればいいのだ? エロゲーの主人公でなくなるためには、私はこの場面でどう振る舞えば良かったのだ? 感謝されてるんだしいいじゃないか! え? どうなんだよ。別に下心なんてないよ。純粋に苦労してたから声かけただけだよ。ちくしょー。

 前回からすごいな。煩悩男子音大生の恥さらしコラムだな。まあ、いいや。楽しいから。こういう脚色で文章化してると、音大の生活が本当に素敵に思えてくるようだ。しかも自分があたかも純情で素朴な少年であるかのような幻想にも浸れる。すばらしい。前向きでいるための優れた療法かもしれない。

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