一気に読んだ。とてもよい。「小川一水作品史上、最も苛酷なサバイバルが始まる――」と、帯にありますが、確かに今までの作品とは一線を画す雰囲気で、新境地、と言っても差し支えないと思う。漂流する軌道ステーションの残骸に閉じ込められた10人と1匹の物語。
舞台となる時代は21世紀末。カーボンナノホイールを利用した推進システムによりラッシュを迎えた宇宙開発も、やや停滞気味となった頃。地球軌道上のトーラス型中継ステーション、〈望天〉の北極円盤は、思いもよらぬ爆発事故によって完全に崩壊した。円盤の一部と、月往還船〈わかたけ〉は、結合したままで漂流をはじめる――大気圏突入軌道に乗って。救難信号も出せない中、閉じ込められた人々が生還できる可能性はあるのか……。
小川一水の作品は常にポジティヴな目線に支えられていたわけで、だからこそ「みんなで頑張ればうまく行く、みたいな甘ったるい思想、マジキモイよね」、みたいな心無いことを言う輩が出てくるわけです(断っておきますがわたしはそういう嘘っぽいポジティヴさは大好きだ)。
この話ではある程度までそれを封印してます。ドラマとして作り上げることを放棄したとも取れる。なにせこの事故自体、差し迫った危機の山場は前半はじまってすぐにあって、あとは延々、空気が悪くなる中さまようくらいしかできることがない。圧倒的なクライマックス、なんてものがあるわけがありません。
つまり、ロマンスやらカタルシスやらあっと驚く大仕掛けやら、そういうドラマツルギーによる援助を一切拒否し、ストイックにサバイバルをやっている。少なくともそれに近いことをやっている。出てくるキャラクターも、今までの作品にはなかったくらいに「人間臭い」というか、悪人というか、少なくとも底抜けの善人なんてひとりもいない(小さな子供でさえ、鬱陶しい存在としての側面が描写される)。
そうした中で、弱弱しくも打ち消しようのないものとして描かれた希望には、確かな力強さが宿っている。作中にひとつだけ、展開に重要な影響を持つ完全にSF的な仕掛けがあるのだが、その仕掛けは、人類の未来へのひとつの根源的な問いかけとともに存在する。
ストイックなサバイバル、という原則が明らかに破れているのはこの箇所だけで、だからこそ、この隠されていた大きな問いが胸に刺さる。今までになく人間の弱さ醜さを直視した内容ではあるが、それだけに、作者が決して失ったことのない肯定的な世界観が、かすかにだろうと、見失うことのない光を放つように思えるのだ。
面白い!ページをめくる手が止まりませんでした。以前にも書きましたが、ジャンルは違えど、有川浩作品を好きな人なら、絶対に小川一水作品も好きなはず。全体的に小川作品には、人間賛歌というか、人という種族に対する深い信頼と愛情を感じます。有川作品同様、例えどん...
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