トップ 検索 管理用
もりげレビュー


  03年1月レビュー Date: 2003-01-01 (Wed) 
03年1月の雑記へ戻る


書籍音楽ゲームアニメ他
プランク・ゼロ A   
    
    




『プランク・ゼロ』

【ぷらんくぜろ】スティーヴン・バクスター/著:《小説》


 壮大な宇宙史、と銘打ったSFは数あれど、バクスターのジーリー・クロニクルほど規模の大きなものはちょっと見あたらない。ベンフォードやブリンもちょっとこのシリーズにはスケールのでかさでは敵わないだろう。
 そのタイムスケールたるや宇宙開闢直後から、1000万年後のバリオン生命体絶滅、さらに宇宙の滅亡まで及び、さらにはこの宇宙とは別の宇宙の姿までも描かれる。
 これだけではあまりイメージが湧かないかもしれないので、壮大さの具体例をあげよう。このシリーズ中では、グレート・アトラクター(うみへび、ケンタウルス座方面に3億光年ほど離れた場所にあると推定されている超巨大重力源)の驚くべき正体が明かされる。それは、地球外知的生命体であるジーリーという種族が作り上げた、別の宇宙へ続く扉。なんと直径が1000万光年(ちなみにご存じとは思うが、われわれの天の川銀河の直径が約10万光年である)にも及ぶ回転するリングで、ジーリーは銀河を材料にしてこいつを建造しているのだ。このシリーズの肝をつぶすような壮大さをご理解いただけるかと思う。
 ちなみに、この作者の書くものはハードSFであってスペオペなんかではない。大真面目にここまでぶっとんだ設定を描くのである。それだけに、SF的感動もひとしおである。

 さて、そこまでとりあえず解説したところで今回の連作短編集。実は、もともとはこれと『真空ダイアグラム』(もうすぐ出ますね)は一冊の短編集だったらしく、本書だけでは完結していない。語られるストーリーも、西暦5664年までである。特長たる壮大さにはやや欠けるとも思えるが、そこは下巻に期待するとしよう。
 第一部は「人類、拡張の時代」と題され、人類が太陽系内に広がっていく過程だ。この中の短編は、基本的に地球外生命にあふれる太陽系をいきいきと描いている。カイパーベルト天体、冥王星、水星……意外な場所にも息づく生命たち。ハードSFというよりは、古き良きSFを読んでいるような印象もある。そろそろエウロパの生命に飽きてきた御仁にはオススメである。
 第二部は「スクウィームによる人類支配の時代」。ここに収められた作品は、ジーリーの残したオーバーテクノロジーによる奇妙な工芸品にまつわる小話のような雰囲気。日本のラノベ系SF作家に通ずる精神を感じる。
 第三部は「クワックスによる人類支配の時代」。ここでは、前述のグレート・アトラクターやら、宇宙開闢時の名残のクォグマ(自由クォークのマグマ)、プランク定数の操作等々、いよいよ大仕掛けの数々が姿を現し始める。
 実は、これらの物語をつなぐ「イヴ」という章が合間合間にはさまっている。イヴの正体もまだ不明で、下巻である『真空ダイアグラム』を待つしかないのだが。

 さて、間違いなく本書は良質のSFであるが、少し残念なことがある。同じシリーズの長編で見たような圧倒的な感覚が、短編であることによって損なわれているように思えるのだ。あるいはこう言うこともできるだろう。あくまで『時間的無限大』や『虚空のリング』を読んでこその本書である、と。おそらく、本書を読むだけではジーリー・クロニクルの真の姿は立ち現れてこないだろう。
 ところが、なんと以前刊行されていたジーリー関連の長編は、すべて現在絶版となっている。これはどういうことなのか。早川書房に問いたい。とんでもない手落ちである。今すぐ復刊せよ。
 大体、早川の態度はおかしいのだ。読者のことなど考えてもいないのだろう。ロバート・J・ソウヤーにしたって、『イリーガル・エイリアン』なんか出してる暇があったらキンタグリオ三部作の残りを出せ、と言いたい。もう少し出版社としての自覚を持って欲しい。特にSFを支えている一番大きな柱がハヤカワ文庫SFなのだから、そのあたりも心して欲しい。

 ……レビューというより早川書房批判みたいになっちった。

ページの頭へ戻る




感想、憤激、おまえの正体は見破った等、もしよろしければこちらまで


[前頁]  [次頁]


- Column HTML -