駅で停車中の電車の中。ここは天下の秋葉原。
「おれ秋葉系になろっかな」
「マジやめたほうがいいっすよ」
「えーなんで。カッコイイじゃんよ」
「マジやめたほうがいいっすってば」
「あれだろ」
そう言って彼は今まさに電車に乗ってきた男をちらりと目で示す。ここは天下の秋葉原。
「シャツズボンに入れてー、リュックしょってー、で、紙袋」
まさにそのスタイルをした秋葉系の男本人に聞かせようと思っているのだろうか、ずいぶんな声がでかい。
「あはは。マジやめたほうがいいっすよ」
「で朝から並ぶんしょ。『えっ、プレイステーション?』とか言って」
えっ、プレイステーション? とはたぶん言わないだろうが、まあそんなもんだろう。
「あいつらの人生ってゲーム以外ないんだろうね。マジいみわかんねー」
うわあ。そんなことないにょ。アニメもあるにょ。
そのヒップホップ兄ちゃんたちの人生にゲーム以上のすばらしいものがどれだけやってくるのか知らないが、秋葉原の中心で叫ぶ内容の会話でもなかろうて。
いまという時代は、ヴェネチアの偉い建築フェスタを見てアメリカ人が「オー、ニッポンの心、これワビ、サビ、モエ、ね! ワンダホー!」とうなるような時代である。
あんたたちヒップホップ兄ちゃんは世界に誇る日本の心を生み出しえたのか? あんたたちの文化はヴェネチアビエンナーレで各国の熱い視線を集められるのか?
秋葉系は世界の最先端なのだ、ということを認識せずに馬鹿にしたようなことを言っても、自分たちが痛いだけなにょ。
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