共演者と譜めくり、ふたりの女性とお茶をした。ふたりとも弦楽器奏者。
譜めくりが言い出す。
「そうそう、このあいだなんか声優さん? のライヴのバックで弾いたんだけど、なんかさ、やっぱ客層があれで。普通の歌手とかと会場の雰囲気がぜんぜん違う」
知らん顔してろよ、ともうひとりの自分が呟くのに、俺は尋ねてしまう。
「え、あの、声優さんってなんて名前の人……?」
「なんてったっけな。……えーと、かさはら、笠原」
「笠原弘子?」
「そうそう、そうだ」
「そっかー、けっこう前から割と有名な人ですよ。声優というか割と歌手として」
ほんとかよ、自分。というか、「割と歌手として」って日本語なのか。そこに共演者が口を挿む。
「なに、やっぱり歌とかもアニメ声なの?」
「いや、そんなでもなかったけど――」
「そうですよね、笠原弘子ってたしか割と歌手ですから」
もういい、黙ってろ俺。
しかし俺はまだまだ黙らない。
「えー、でもそれでもやっぱり客層は秋葉系なんだ?」
「うん、みんなチェックのシャツで――」
これだけ言われてるのにおまえらまだわかってないんですか。
「ズボンの中にたくしこんでて――」
なんでそんなにわかりやすいんだ。
「太ってるかやせてるかどっちかだよね。みんなメガネだし」
……俺が赤面する必要はないんだと思いたい。
「でね、MCとかの反応がなんか普通と違うの。おっきい声で『そうそう、わかるわかる!』とか言っちゃったりとか、反応がわざとらしいっていうか」
想像できるというか、既視感があるのはなぜなんだ自分!
と、共演者が言い出す。
「そういえば私も、このまえ知り合いの関係ってんで聴きに行ったバンドがそういうバンドだったらしくて」
「そ、そういうバンドってどういう?」
黙ってろというのに、俺。
「ヴォーカルが女であとはみんな男のバンドなんだけどね、なんかアニメの主題歌を歌ってたとかなんとかで」
「ど、どんなアニメなんですかそれ」
もうだめだろ。それ以上聞いたら俺ヤバイだろ。
「さあー、なんか深夜にやってたとかで」
「へ、へえ!」
「でね、行ったらもう客がみんなそうで、脂っこい汗とかかいてるわけ。もうその時点でわたしは帰る気マンマンだったんだけど、友達に手つかまれて連れてかれて」
「うわあ」
うわあうわあ。
「なか入って後ろで縮こまってたら、前にいた人が『ぼくたち背あって邪魔だと思いますしー、それにぼくら跳ぶんでー、あなたたち後ろじゃ見えないと思うからどうぞー、前いってくださいよー』とか言って前に押し出された」
「わあ、優しいじゃないですか」
いや、別にそいつらの味方をする必要はないと思うんだが、俺よ。
「もうね、それで完全に秋葉系の中に取り残されて大変だった。なんかそれでさー、そのアニメが女教師かなんかがどうこうとかいうやつだったらしくて、ヴォーカルの女の人が途中で黒いスーツみたいなので出てきて、棒みたいなの持って『ちゃんとやらないと叱っちゃうぞ!』みたいな科白言うんだよー」
しんじらんない、という顔をしながら彼女は語る。
「そしたらみんなウォーとかって。それに、マジで跳ぶの! みんなで!」
「うわあ」
ゆ、許してやってくれないか。きっと、悪い奴らじゃ……ないはずなんだ……。
自分がやらないにしても、そういう文化を普通に知ってて、なんだかいつの間にか慣れてしまっていたけれど、人の口からことばとして聞くと……痛すぎる。もう、だめなんだ。秋葉系は、だめなんだ。そう深く深く思った冬の午後。
ところで、その女教師がどうので主題歌を歌ったバンド、ってあたり情報が混乱してるのかどうかわからないけど、なんのアニメの話かぼくにははっきりわからない。おねティはだってKOTOKOだし……。ピンときた方いらっしゃいましたら、ぜひコメント欄に書き込んでいってくださいまし。
mail:gerimo@hotmail.com
跳んだり跳ねたりしてる俺はどうすればいいんだ。実際やってみると、意外といいもんだぜ……あれ……。
上のやつ名前が化けた。
絶望的に化けてるなあ。何度もすまん。林田です。
良いものだということは私もわかってるんですけど、それでもやっぱりどこかが駄目なんだ……オタクは公共の場で群れを作っちゃいけない生き物なんですよきっと。
作品はこれで↓<br>http://www.starchild.co.jp/special/sensei/<br>バンドはこちらかと。↓<br>http://www.cangoo.jp/
ヽ(`Д´)/それだ!<br>どうもありがとうございます。とてもすっきりしました。