ロバート・J・ソウヤー『ホミニッド――原人』読了。あああ、なんともソウヤーだなあ。
鉱山の採掘跡につくられたニュートリノ観測装置の重水タンクの中に、突如として現れたネアンデルタール、ポンター・ボディット。彼は、平行宇宙の同じ場所にある量子コンピュータの思いがけない作用で飛ばされてきたのであった。なんとその宇宙においては、クロマニヨンが絶滅し、ネアンデルタールが文明を築き上げているという。
こちらの世界においてはネアンデルタールと人類の交流(異種間恋愛含めて)、あちらの世界では、ポンターに対する殺人容疑をかけられた同僚の裁判を中心に物語は進む。特に裁判は相手役が大変にくたらしいので、先が気になって仕方のない出来。
もちろん娯楽として面白いのだが、何よりネアンデルタールの文明体系の構築がすばらしい。暦などを細かく設定してあるのはもちろん、彼らの宗教観や倫理観が議論されるシーンは、我々の社会へのひとつの問題提起としても興味深いものである。たとえば彼らは「アリバイ履歴」というものを常に記録されているのだが、そのような「プライバシーの侵害」になぜ無頓着でいられるのか。その回答として出される文化のあり方には、考えさせられるものがあった。
三部作の第一部ということもあって、いかにも序章です、という作りなので、本作だけで物語を評価する段階にはないが、宇宙の成り立ちという大ネタにもこれから迫っていくようだし、ネアンデルタールとの接触で人間社会がどう変化していくのか、その辺りも大いに楽しみに待ちたい。
mail:gerimo@hotmail.com