連れて行かれた。遠い場所まで。おぞましくも美しいイメージ。ところどころに剥き出しで残された、胸を締め付けるような情感。憧れと、諦念と。
いいものを読んだよ。もう一年前に出た本なわけですが、今まで読まずにいたのが勿体無かった。いや、続きを待つ時間が短くなる分は得をしたのか。
――「マスター」ドラクトン・ビロウの脳内に、特殊な記憶術によって構築された都市。それを現出させたのが「理想形態市(ウェルビルトシティ)」であった。そこに暮らす、ビロウの忠実な部下たる観相官クレイは、辺境で起きた事件の犯人を割り出すために出かけることになる。理想形態市の炉で燃やされる鉱石、ブルー・スパイアの採掘現場であるその辺境で、楽園から持ち帰られた白い果実が盗まれた、というのだ。クレイの卓越した観相学の知識と技術を利用すれば、簡単に済む仕事のはずだったが……。
スパイア鉱石を掘るうちに自らも青い石となってゆく鉱夫。玉蜀黍のような頭をした古い木乃伊。金の引き鎖でつながれた人狼の少女。
豊穣なイメージの渦に身をゆだねていると、物語は予想もつかぬ展開を見せ、ページを繰る手が止まらない感覚。幻想文学であるばかりでなくエンターテインメントとしても一級であったのでした。
どうしようもない傲慢野郎だった主人公の贖罪の旅は終章で一段落したものの、どうやらこれは三部作の第一部に過ぎないのだそうで。この先も早く読みたいものだ。
しかし、英語→(金原瑞人・谷垣暁美訳)→日本語→(山尾悠子訳)→山尾語、というこだわりようはなかなか素晴しいことだと思う。山尾氏が直接訳せるんならそれが一番だったんだろうけど。
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