「ねえねえ、いまの人かわいくない?」
こいつはちょっとかわいい女の子がいるといつだってこれだから、はっきり言ってつきあいたくない。
けど、彼の発言がさしている人物というのがひそかに俺もファンである司書さんなのだから、いまや話は別である。
「うん。俺もファンなんだけどさ」
本音トークである。恥ずかしげもなくよくやるよな、と自分でも思う。まあ、半分ネタだからできることではあるけど――
「えっ、もりげくんもファンなんだ! そうなのか」
俺の発言に、同志よ、と肩を抱かんばかりに喜んで顔を上気させると、彼は
「彼女の名前、天美あきら(仮名です!)って言うんだよ。知ってた? 天国の天に美しい、名前はひらがなで」
などと得意げに言った。
「お、お前なんでそんな詳しいの?」
「いやあ、ぼくの知り合いに彼女の同僚がいるんでね、それで苗字だけはわかってたんだけど……」
「わかってたんだけど?」
「ま、それでいろいろ調べた」
「Σr(‘Д‘n)」
「基本的につんとしてるけどさ、たまに顔がほころぶんだよね」
「Σr(‘Д‘n)」
「あと、6時くらいになるとたまに同僚と笑いながらあの交差点を通るのを見るよ」
「Σr(‘Д‘n)」
こ、こわいようなきがする。
俺は、半分ネタだから、とさっき思った。
けど、こいつはぜんぜんネタじゃなかった。
100%くらい、本気だった。
ぜったいやばい。
いや、でも……と思いなおした。こいつはこういうやつだったか。本当に重大な害は決してないんだ、それは知ってるし。
とか考えたということは、意外なことに俺はこいつを心底信頼してるらしい。なんともはや。そんな信頼、いらない。信頼なんてろくなもんじゃないな、と思った。
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