そいつはすっかり干からびて、仰向けになって死んでいた。学校の防音室の2重ガラス窓の間にどうやってか入り込んだのが運の尽きだったのだろうな。きっと、ひもじいようひもじいよう、と訴える声を誰に届かせることもできずに死んでいったんだ、このゴキブリは。
そんなことを考えながら、その死骸をしばらく眺めていて思ったことがある。ゴキブリの触覚の細さとか色とかって、なんか髪の毛に似てません? たとえばベッドの枕のところなんかにゴキブリの触覚が落ちてたら、抜け毛と間違えて何気なく手で払ってしまいそう。
羅生門で、老婆が髪の毛の変わりにゴキブリの触覚を集めて売って回ったらきっとだまされて買う人がいるに違いない。ゴキブリの触覚でできたカツラとか作っちゃうに違いない。
いや、地毛が実はゴキブリの触覚の人間とか、ほとんど普通人と見分けがつかない。でもゴキブリの触覚なわけで、よしよし、とか頭なでると、ぞわり、と一斉に髪の毛が動いちゃったりするわけですよ。怖いなあ。メデューサなんかよりよっぽど怖いと思うなあ。ゴキブリの触覚の髪の毛を持つ女。
mail:gerimo@hotmail.com