ハトってやつは腹に一物ある。あの顔を見ればそんなことは一発でわかる。俺のような人間に見破られるようではまだまだなのだ。
しかし、奴らの計略は俺の見たところかなりうまく当たっている。たとえば、奴らはたまに、わざとカラスに仲間を差し出す。カラスは頭が良いはずだが、ハトのことを内心バカだと思いこんでいるのが仇になる。わざと襲わされているとは思いもよらず、差し出された獲物をほくほくといただいてしまう。結果、カラスがハトを狩って食べているところは多くの人間に目撃される。ハトはいつも無害そうなふりをしているので、それを見る人々は「カラスはあの平和なハトをいじめる悪いやつなんだ」というイメージを育ててゆく。
もしかしたら、カラスが散らかしたと思われている生ゴミも、大半はハトの仕業かもしれない。奴らは朝早く起きてゴミを散らかしておき、カラスに告げにいく。「おいしい生ゴミをご用意いたしました」と。カラスは、内心かなり軽蔑しているハトの媚びへつらうような視線に気をよくして、「よっしゃよっしゃ」と食べに行く。人々は嬉々として食事タイムに入ったカラスを見て、「なんて悪いやつらだ」という思いを募らせてゆく。ハトは物陰で、にやあ、といやらしく目を細める。
現都知事は、こんなハトの計略にまんまと引っかかってカラスの粛清を開始したのだった。暴挙である。大変だ。今からでは間に合わないかもしれないが、捕縛作戦を即座に中止せよ。
わからぬのか。カラスの数が一定以下になったときこそ、ハトが行動を開始するときなのだぞ。奴らは首をひょこひょこ動かしながらカラスを取り囲み、「くけけけけけけけけ」と笑いながら小さな嘴で攻撃開始。そんな嘴で何ができる、と余裕を見せていたカラスは、しかし少しずつ羽をむしられながら、じわじわと追い詰められてゆく。
そして……。彼にとって世界が終わる瞬間、彼の意識は、あの、さも無害そうな奴らの呟き声で、満たされていた。なんて……うかつ。よく聞けば、あの呟きには腹黒さがこんなにもはっきりにじみ出ているのに……。なぜ……気づけなかったのか。
彼が最後に抱いた感情は、悔恨であったという。
なんてひどいんだハトどもめ。
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