「嵐好きなんでしょ」
「いや、それはことばのあやってもんで……」
大粒の雨と強風と、ついでに日差しとに集団暴行を受けながらようやく目的地に辿りついたのだ。もう少し優しくしてくれてもいいと思うな。
「ちょうどのタイミングでしたね。ほら。もうすっかり晴れてる」
ついさっきまでのはちょっとした嫌がらせでした、みたいな感じに空は青くて、綿毛みたいな雲がゆっくり流れていく。地上の風もかなりおさまっているみたいだった。
「さっきすごい嵐になってるの見て、もりげさんが昨日あんなこと言うから期待にこたえてるのかな、とか考えちゃいましたよ」
ごめんなさい。嵐ってちょっとわくわくするよね、とか言いました。被害地域の方々、考えが甘くて不謹慎きわまるぼくをお許しください。
実は二百十日生まれ。それを基にして、又三郎のように嵐を呼ぶ力を持つ自分を夢想したこともあったものだ。
今年は呼びすぎた、というところか。
「滅多なこと考えるもんじゃないな」
なんだか親の田舎でも屋根が壊れたりしてるらしいのだった。
「そうですね」
その後、一緒に「その日は嵐が吹き荒れ……」で始まるドイツリートを演奏した。そうしているとまた分厚い雲が押し寄せて大雨がやってきて、向かいの棟の屋根から、何事にも頓着せぬ気な水がじゃばじゃばこぼれるのが見えた。
ちょっと、気分がよかった。
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