イアン・ワトスン『エンベディング』(山形浩生訳)読了。埋め込み(エンベディング)式言語をめぐる、認識と現実の変容をめぐる物語。
どうも「言語学SF」というジャンルにぼくは弱いようで、「言語と世界認識と意識の変容が云々」と聞いただけでものすごくわくわくしてくる。なんでなのだろう。牧野修『MOUSE』との出会いなんかが衝撃的だったからだろうか。
というわけで、ものすごくわくわくして読んでみた。ルーセルという詩人の作品からとられた特異な埋め込み様式の言語を与えられて育つ実験施設の子供たち。時間の捉え方までが変わってしまう埋め込み言語とドラッグによる超越の儀式で世界と対話をするインディアンの部族。宇宙中の言語を採取することで、「この現実」を超克しようと試みる異星人。この三つの要素が絡み合いながら物語は進行する。この設定だけでもうめっぽう面白い。
しかし、埋め込み言語による認識がどのようなものか、といった中核の部分の描き方が物足りない。これは、作者の意図というよりは力不足によるものにしか思えない。アイディアの割には、遠くまで連れて行ってもらえない感じ。いやもちろん面白いのは確かなんですが。古川日出男とかに書いてもらったらくらくらする体験になりそうだったなあ。
あと、読者はもちろんのこと、世の評論家諸氏、さらには作者すらも見下ろす地点にすっくと君臨した訳者・山形浩生氏による、皮肉と嘲笑に満ちた偉大なる「あとがき」は、いつものことながらちょっとにやにやしながら読みました。
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