朝日新聞の夕刊のトップで、やたら有望さを強調するやり方で日本語小論文自動採点システムが紹介されていたので、その動作について検証してみる。
というか、そんなん今の段階で出来るわけねーだろ、というのが本音なわけなんですけど。
さて、先のページに行くと「サンプルデータ」という欄があるのでそのどれかをクリック。「すべきこととしたいこと」についての小論文の質問文と、その解答例が見られる。すべての例がアメリカの学生の文章を翻訳しただけっぽいのはご愛嬌。で、質問文をそのままに自作解答を書いてみた。
こんなの。
質問文に於いて「すべきこと」と「したいこと」の明確な定義が成されていないため、有意味な文章を書くことに困難を感じる。従って、ここでは仮に、自分が将来最大限の幸福を享受し、死までの時間を最大限延長するための論理的帰結たる行動を「すべきこと」とし、それとは無関係に感情によって要請される行動を「したいこと」と置く。後者は前者と一致することもあれば、しないこともある。
さて、私は死にかけたことがある。直撃すれば確実に死に至る速度で走行する糞尿回収車の前に、それを認識した上で飛び込んだのだ。自らの死期を極端に早めることに成りかねず、そうでなくとも障碍を得て生活に不自由を来すことも考えられる。そのような行動は、論理的に「すべきこと」では決してなかった。しかし私がしたいことではあったし、しなければならないことだったのである。
なぜなら、糞尿回収車の前には私の愛する太郎左衛門が立ち竦んでいたからだ。彼の命が喪失される可能性の前には、私の将来についての論理的帰結など矮小な事物に過ぎないと感じたのである。論理的思考に囚われて、彼を救いに飛び出すことを「すべきこと」ではないと判断し、太郎左衛門を見殺しにする。もしもそんな選択をしていたら、私は死よりも深い後悔をしていたはずだ。
私は両足を粉砕骨折し、太郎左衛門は傷ひとつなく助かった。その太郎左衛門も、私が車椅子で退院するころにはネコ汎白血球減少症を患い、今はペット用墓地の土の下で骨となっている。丘の上にあるその場所からは、春には桜が、秋には紅葉が、喩えようもなく美しい濃淡の色合いをなす様が、遥かに見渡せるのだった。
太郎左衛門の死を私は穏やかに受け入れた。それはあの時、論理的にはすべきことでなくとも、したいことを実行し、彼を見殺しにしなかった思い出があるからこそ至ることのできた心境に違いない。
もちろん嘘八百。結果は8.4点であった。で、ここで糞尿回収車をダンプカーに、猫の名前をアナキンに、猫の病気をネコエイズにしてみると、結果は0.8点も低下し7.6点となる(コピペして入力していただけば詳細が見られます)。おいおい、猫や車の名前だけでそんなに文章の価値って変わるのかよ!
さらに驚くべきは、上記の原文から第二文にある「自分が」の3文字を削っただけで、内容の評価が0点になり、全体の評価が6.5点まで落ち込むという事実である。どういう判定回路をしているのやら……。
でまあ、ぜんぜん役立たずだということがはっきりしたので、同じ質問文に対して下のような文章を書いてやりました。
すべきだと感じる、という言葉には少々不穏な感情を覚える。その確たる理由が自分でも明確に出来なかったのだが、今思いついた。それは「すべき」の「すべ」の部分の響きのせいであろう。要するに、滑る、という動詞を想起してしまうからだ。私はこの試験で滑りたくないんだ。
私はパラグライダーに憧れている。実際に経験したことは実はないが、清澄な冬の大気の中で滑空するのはきっと気持ちがいい。しかし、滑空とは空を滑るということであり、やはり滑るというのは縁起が悪いのでやめておこう。滑る、という字は「なめ」と読むこともある。滑床山の熊、というのはこの漢字で合っているのだろうか? 宮沢賢治だよね。
したいこと、という言葉も心の平穏を乱す。その確たる理由が自分でも明確に出来なかったのだが、今思いついた。それは「したい」という響きである。死体、と変換したならば、それは大災害の中で溢れかえる死体安置所、といった光景を想起させずにはいないだろう。肢体、と変換したならば、それは普段は純真無垢なのに、たまに妖艶と形容したくなる誘惑をしてくる私の超凄い彼女を思わせる。脳内彼女なんて揶揄する友人もいるが、とんでもない話だ。彼らは現実と妄想の区別もつかない馬鹿者どもである。彼女の万物理論のように完璧な肢体は、自分以外の誰にも触らせないからな!
つまり、「すべきだと感じること」も、「したいこと」も、私の心を惑乱させる。それとは関係なく、今ここでしたかったことは、内容のないような文章を書いてこの評価システムの無能さを暴くことであり、それは成功したと言えるだろう。ばーかばーか。うんこ。
結果は――8.6点!!!!
……………………orz
うんこ。とか書いた方が点数高いのかよ!
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