ぼくはただただ苦労しているところで、それというのも食おうと思ったハッサクの皮が異様に固いせいだった。あんたが蜜柑の皮むくの下手すぎるのがいけないんでしょ、というツッコミが入ったりしたけれど、そんなわけない。あれは人間に剥ける固さではなかった。いくらぼくがモーむすのラジオに送ったメールを家族に読まれた憐れな男の子の話を聞いたせいでいくらか心に傷を負っていたとしても、蜜柑の皮を普通に剥くこともできないような精神状態だったわけじゃない。
ともかくそうして憤怒憤怒と皮を剥いていたら、どうも中の白いスポンジの一部が、真っ赤に染まっている。なんだ、これは。なんかの染料がしみているのか。
ぼくは手を止めてしげしげと皮を観察した。しかし、皮の外側にはまったく赤い部分はなく、そもそもいま剥きはじめたのに中に染料がしみこむなんてことが起こるわけもない。実に実に不気味だった。
さらに憤怒憤怒と剥いたなら、なんだか赤い部分がどんどん広がっているではないか!
「なんだよ、この赤いのなんだよ、うわわわわあ」
真実に気づくまでだいぶかかった。ぼくの右手親指の爪の間が裂け、出血していたのだ。それで蜜柑が赤く染まっていたのだ。それを知った瞬間、ようやく爪が痛み出した。
ハッサクよ。その固い外皮はぼくを害するためのものだったのか。よくもぼくにこんな傷を与えたな。覚悟せよ。食べちゃうぞ。
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