堪能いたしました。表題作はやっぱり素晴らしい(既に周りの人が口々に言ってることですが)。「完全な直感像記憶を持つ、恐ろしく醜い女」ってイメージだけでもう勝ったも同然だというのに。書き下ろし以外は既読だが「クローゼット」なんかはだいぶ改稿が入っています。それでもいちおう、第2作が『空の園丁』じゃなくなったのは残念です、と身勝手を垂れてみる。
ほかではけして味わえぬ美しさ。何かの作品を指して美しい、という言葉を吐くのはあまり好きではないのだけど。たとえば、『グラン・ヴァカンス』の舞台だった〈夏の区界〉と、収録作「蜘蛛の王」の舞台〈汎用樹の区界〉の有様はまるで異なっているにもかかわらず、通底しているのはたぶん、何らかの美しさ、なのだと思う。それは何も《廃園の天使》に限った話ではない気もするのだけれど。
本当に独特の味わいなのだなあ。方向性としては、いわゆる幻想小説の書き手と似ているのだろう。イメージを掘り当てる、という感触がまずあって、それがSFとして解釈されていくというあたりが私のような読み手にはたまらないわけで。たとえばテッド・チャンなんかと比較されたりすることが多いが、実際のところどうなんだろう、共通項ってあるんだろうか。あ、たとえば、なかなか新作が(ry
個人的には〈大途絶〉の原因というのがいくぶん弱い気がして、そこにはちょっと引っかかった。合理的、社会的な説明を試みているぶん余計に。物語の構造としてはあの設定で完璧だと思うのだけどなあ。まあ、それは瑣末なことではあります。SF読み以外も、なにか変わった読書体験を求めてる人なんかはぜひ読むといいと思うよ? むろん『グラン・ヴァカンス』も一緒に。
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